木曜メールマガジン
”原理からのDX”を語る
#010
1、過去トラとは、
2、対策の重要性、
3、対策は誰がすべきか、
4、エンジニアリングへの活用、今回配信
5、現場での利用
6,生産技術での利用、
7、,製品開発での利用
過去に起こった問題は、特に製造業では過去トラと呼ばれています。過去トラとは過去のトラブルのことで、一般的には過去のトラブルを参考にすることで、同じような問題を再発させないようにしたいと考えています。
しかし、このように過去トラを使い切れている企業はそれほど多くないことが分かっています。過去トラはどのように扱われていますか?と質問すると、サーバーにトラブルの報告書が保管してあります。或いは、トラブルが発生した際には、速やかに社長以下の幹部社員や課長まで一斉メールで伝達していますとの返事が返ってきます。
では、過去トラの内容として、どのようなことが書かれていますか?そして、対策や結果まで記録されていますか?とお聞きすると、実は、その点については十分フォローできていないとのお答えがよく聞かれます。
このようなことがないように、どのように過去トラブルを扱い、活用すると良いのかについて、具体的に解説をしていきます。
今回、過去トラのエンジニアリングへの活用について考えてみることにしました。
1、エンジニアリングとは
エンジニアリングとは技術の組み合わせによる問題解決の業務です。
技術の無いところから出発することではなく、例えば企業などの集団の中に
蓄積された技術や世の中に一般化された技術、他の集団から解放されたノウハウなどの
技術を参考に問題を解決することになります。
同じ製品を開発する場合、蓄積された技術が同じであれば、その組み合わせにより、新たなアイデアで
新しい問題解決の技術や手法が生み出されるのは想像できると思います。
もちろん、蓄積された技術が同じという場合は少なく、ほとんど同じということが多いと思います。
では、どんなことにより、他社を超える新たな技術が開発できるのでしょうか
それは、過去トラの中から得られた知見が活用できる状態で蓄積されているかによると思います。
2、自動運転技術の開発
製品の設計は安全、品質、コスト、リードタイムの観点からベストな構造設計を行う仕事です。
設計的に斬新であっても、生産時の品質が不安定となることではお客様に提供ができないことにもなります。
例えば、自動車の自動運転技術にては、斬新なアイデアによる自動運転技術を発見し、製品化しても、
自動運転による事故が発生するようでは、企業として安全についての問題意識を問われてしまいます。
一方、アメリカの企業では、それでも完全に安全な自動化に向けて、市場に自動運転車を投入しています。
ここでの立場の違いは、チャレンジすることで、問題を早期に見つけて対策する方が、より安全な車を提供することが近道であるとするか、実環境で問題を発見するより安全であることを机上・実験にて確認してから市場に投入すべきだという考え方の違いがあります。いずれも自動運転における問題発生ケースが事前に整えておく必要があります。
日本企業は、後者の立場だと思います。ロケット開発でも未だ無人を前提にした技術開発となっています。有人技術は持ち合わせていないのです。このような人の安全に対する感性の違いは日本人の特性から生まれるのかも知りませんが、チャレンジしなければ出遅れてしまうことは否めません。
いずれにしても、実際に開発した上での問題と対策(=過去トラの活用)は技術の組合せを決める上での判断材料になるものです。それ以外の判断材料はあるのかと聞かれると回答に困ってしまいます。
つまり、私たちは常に過去の成功と失敗の事例の上で、次の問題を解決する技術の組合わせを研究しているわけです。
となると、過去トラは重要な無形資産であり、他社への販売などは考えられません。M&Aは特定事業を吸収するので、この無形資産を人と一緒に丸ごと渡すことになります。
このように考えるとM&Aは企業の戦略における突出した手段であると納得できます。
3、SECIモデルと過去トラ
ここで、思い出して欲しいことは、「知識創造理論の生みの親」でもある一橋大学の野中郁次郎名誉教授のS ECIモデル、「共同化(Socialization)」、その暗黙知を言語化してコンセプトへと昇華するフェーズを「表出化(Externalization)」
そして、言語化された形式知を組み合わせたり再配置したりして新たな体系的な知識に変換するフェーズが「連結化(Combination)」、さらにその形式知を自己のノウハウとするため身体化するフェーズが「内面化(Internalization)」です
もし、過去トラが活用が進まないなら、野中先生の共同化ができていないことであり、それができていないために、その後のE ,C,Iが展開されない。つまり、役に立つ本当のアイデアが創出できないことにつながっています。
昭和の日本企業は、その社員が定年退職するまで勤務してくれるという期待から人と知識を分離させていません。
多分、転職が活発化した現在でも、人と知識は分離されず、知りたいことがあれば、知っている人を探すことになっていると思います。
日本には多くの工芸品や舞踊など国宝と呼ばれる方々がおみえです。このような方は、自分の経験から確立した作法を基に、都度、頭でチェック修正しながら完成品を目指しています。
製造業ではこのプロセスを大人数で細分化し、全体と部分の関係性を自分と関係する相手としかチェック修正を行いません。結果、部分を足しても全体になっていないと思われます。そのようなことから問題は発生するのだと思います。その穴を埋めるのは過去トラであるとのでは無いでしょうか?
エンジニアリングで突出したアイデアを実現するならば、過去トラを活用した知識の共有化を進めるべきだと思います。それはこれからの生成AIに多いに役立つこととなるでしょう。
最後まで購読いただきましてありがとうございます。
過去トラの現場での活用をお話しします。
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