アウトソーシングに有益な現場知識が蓄積されていく
標準化された業務であっても、その仕事に従事する人は、標準通りの手続きと判断に沿って業務を遂行すべきかを判断し業務を行っているはずである。今、コールセンターは進化し続けている。顧客からの電話応対にITを用いた標準対応画面があるとともに、顧客応対の会話を全てテキスト化し、記録している。この必要性はどこにあるかと言えば、アウトソーシングに電話応対を社外化しても、その応対(現場)の事実はしっかりと記録し、その記録から、見落としてはいけない顧客要求を収集しようとしている訳である。
このことをエンジニアの現場調査の社外化と比較すると分かりやすいはずだ。エンジニアは面倒な現場調査を社外に委託した場合、結局は現場の問題を知り、知識を増やすのは社外者である。しかも、その調査の結果を整理する業務まで社外化した場合には、判断項目の選定まで含めて判断を社外依存していることになる。確かに、その結果を企業の担当者(管理者)はチェックして、良否を判断することは行うであろうが、その方法や内容のチェックに甘さがでることは容易に想像できるところである。
フィールドサイエンスの重要性
結局、現場の調査の社外化は、新鮮な事例に触れ、知識を増やす機会を企業自ら放棄し、社外にその能力を付与することに他ならないのである。したがって、その社外メンバーは長期に渡り、その企業にて固定的に採用されることになる。企業からみれば、失うことのできない知識の保有者となっているからである。川喜田先生はフィールドサイエンスと呼んだ分野である。
社外化は管理から改善の対象から外れやすいので注意が必要だ
一方、このような社外化を行うと、面倒な仕事はどんどん社外に移りやすい。特に、生産量の拡大時はその傾向にある。かつては、派遣法などの整備が無く、必ず企業内で片付けるしかない仕組みであった。ゆえに、業務の効率を向上されることの改善が多く行われ、また、標準化も活発となっていた。社外化が広まり、見かけ上は一部の業務が社外にて実施されることで、企業は余裕が増したかに感じるが、実は、社外にて、業務の標準化が活発に行われなければ、継続的に一定の費用支払いをする必要がある。社外は売上を増やしたいので、積極的に改善をし、同じ業務成果でも、自ら請求額を下げることはしないのではないだろうか。
毎月、毎年、一定のキャッシュアウトが発生することへのメスを入れていくためには、その業務の内容と質をチェックする必要がある。つまり、そのためには、企業にて業務管理を実施する役割を持つ必要があり、間接業務に更に間接業務を生み出してしまっていることに気づくべきである。一旦、業務管理は楽であり、そのような仕事を良しとする風潮が企業内に広がると、いたる組織で社外化が拡大する。
社外化した業務を内製化することは大変難しいことになると知ること
一旦拡大した社外化を内製化することは大変難しいこととなる。ノウハウや経験がないため、企業にその内製の仕事を行える人材を育成することが必要であるが社外化した期間と同じ位の育成期間が必要であるからだ。
物流コストは手を出しにくい社外化である
IT業界ではSCM(サプライチェーンマネージメント)の取り組みが行われている。自然の災害が更にその適用拡大を加速している。SCMの目的は、物流コスト低減にある。しかし、物流は今や、グローバルな業務であり、企業だけで、グローバルな物流を実施することは不可能である。企業の子会社や専門の物流会社とグローバルな物流を実施せざるを得ない。この物流も社外化の1つである。社外化はその企業の使命として、積極的なコスト低減には結びつく可能性は少ない。質的には正しく輸送されても、コスト的には難しいことである。QCDの中で、Cは劇的に改善されない。
ものづくりの社外化は内外製の価値と企業の本質とを考えて行うこと
これと同様に、製造業も、部品や加工、材料を社外に依存している。物を輸送するSCMではなく、ものをつくるエンジニアリングチェーンマネージメントが必要になる。ものをつくるエンジニアリングには開発、設計、生産などの業務において、QCDへ与える影響が強い。社外化されている業務はこの分野に多くあるはずだ。設計、実験、CAE解析、図面検討、試作、加工、設備設計、工程設計、量産トライなどに多くの業務に社外を活用している。これらの業務は企業自身でかつては遂行していたことである。
製造業の人材不足の対策は何をすべきか
社会環境の変化として、今、若い人の就職が厳しい。一方、年金支払いの逼迫から企業には定年延長の動きを国が進めている。企業は固定費を削減するために流動的な人材を欲しがり、業務を社外化する。企業から見れば、定年延長によるコスト負担増で、ますます、必要な時だけ人を採用できる業務の社外化を進めざるを得ない。その結果、若い人の採用を減らす。また、円高によりグローバルな生産拡大は益々強まり、その結果、現地採用は増えるが、国内の採用は延びない。
このようなことの結果として、今、製造業において人材不足が大問題となっている。人材とは仕事のできる人材である。社外化拡大以前に社内で内製の仕事の経験のある人材が不足しているのである。企業は独自に集約していた固有のコア・コンピタンスを社外化し、企業の知識体系のいろいろなところに穴が空いてしまっているのである。しかし、失われた知識の復活には大変な時間が必要である。少なくとも10年は必要である。その間にはグローバルに勝てるエンジニアを更に育成する必要がある。
グローバルエンジニアの育成が必要
さて、ここからが本題となる。グローバルエンジニアをどのように育成するかが生産拠点を海外にシフトしていく際に重要である。これまでのように現場のベテランが体でもって海外の生産の指導をする姿は古い。日本はこのような精神論や美談をそのまま、受け入れてしまいやすい。電気、自動車などの韓国、中国の台頭はどのようになされたかを考えれば良い。彼らはもっと製品、生産を合理的に進めてきている。自国のベテランなどは日本ほど多くない韓国が、グローバルな生産を立派にできている。
グローバルエンジニアは英語ができれば良いわけではない。英語は必要だが、もっとものづくりの設計、生産の知識と経験を持つエンジニアの育成が必要である。企業により、この必要とされる知識と経験は異なるが、その育成への取り組みが急務である。インターネットで育った世代が企業の管理者になるのも間じかに迫ってきている。日本のものづくり企業がこれからもグローバルに勝ち残るためには、海外企業には少ないとされる生産技術のエンジニアを育成する必要があるのではないかと考えている。