製造業のイノベーションと高効率なものづくりに必要な技術知識の蓄積

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グローバルエンジニアの育成は急務

グローバルエンジニアの育成はこれまでどおりのOJTではその逼迫度に合わない。そこで、ITを活用した現場的な価値をもつ方法を提案している。物や事の理解は、人がその場面に出くわした体験から身につくもので、その体験を解決する中から、これまで知らなかった知識を習得し、より広く深い知識として記憶される。このような事柄は、企業や社外アウトソーシングの人でも同じである。


 しかし、これまでのアウトソーソングはその結果を求めるだけであったが、アウトシーングが経験した現場を企業に提供することを行えるようにすることである。先のコールセンターにて顧客の会話がテキスト化され、蓄積されることと同様に、企業、社外のエンジニアが日々、直面していることを蓄積できるようにすることである。

製品開発部門の人材育成


 製品開発、設計段階では、現場とは、設計者と生産技術者が設計構造について検討し、判断をする仕事である。この時には物はなく例えばCADにより作図された3DCADモデルである。あるいは、CAE解析者が解析した結果のデータや、実験部門が実験した結果のデータである。


 今の各製造業でのこれらの現場の仕事は、その当事者だけが知り得、その当事者はその知り得た知識を誰に伝達すべきか知らないことが多い。結局、現在のエンジニアリングは人に依存した方法であることばかりであり、CAE、CADが採用されてはいるものの、本当に局所的な知識共有しか行われていないのである。

社外者も同じ知識共有が必要


 このような職場環境に。社外者が共に働く現場では、同じく、社外者に特定の知識が個人持ちとなることは否めないことである。
 IT技術の活用をこの知識蓄積に対して実現することはエンジニアの考える仕事の可視化になると同時に、エンジニアの考えたことを生産する側と共有することが可能となる。

製造部門での原価低減


 また、生産現場では、物を手にしての原価低減や品質改善、作業改善の取り組みが行われるが、この時、現場では、実際の部品に張り紙を施し、どこの部分をどのように改良すると良いかを指摘しあうことが多い。その指摘した結果を製品の設計者と議論し、採否を決定することになる。

現場で発見した知見の蓄積が必要


 仮に、この改善の張り紙を製品設計者の作成した3DCADモデルに対して記述したら大きなメリットがあるはずである。まず、順番に設計者や生産技術者は3DCADモデルに製品開発段階での設計構造を詰めてきた現場の知識を記述する。そして、その3DCADモデルに記述された製品開発段階での現場の知識を参考にしながら、実際の生産現場での原価低減や品質改善、作業改善が提案されるということが可能になる。


 このことにより、社内関係者の業務スタート時の保有知識はあるレベルに高められ、その共通知識をベースにした議論は、より効率的に網羅的に進めることになる。その議論を通じ、更に参加者はその知識を深めることにもなる。また、この議論を同じ3DCADモデルに記述することで、次回の設計に考慮すべき知識を特別な方法を用いることなく、設計者に参考とさせることが可能となる。このように製品開発や生産における意思決定に使われた知識は大変重要で価値のあるデータであり、その意思決定に例え社外者が参加していたとしても、その意思決定に使われた知識は、企業の知識としてITを活用して企業の財産となる。このことは、これまでのエンジニアリングの仕事のやり方を抜本的に変えることになるだろうと考えられる。

開発プロセスへのものづくり知識の活用


 これまでのエンジニアリングは設計、生産技術、生産の3つの機能に大きくわかれ、その順番に製品開発の設計情報は流れてくる。しかし、その流れてくる設計情報を待つことではなく、積極的に取り、生産側の要求を設計構造に織り込むことで、双方のやり直し削減や、低コスト、高品質な製品設計に英知を集結することをコンカレントエンジニアリングとして推進してきた。

人海戦術では高効率な製品開発は難しい


 しかし、この方法は、あくまでのマンパワーに依存し、繰り返し発生する問題点や製品開発に参加するメンバーの知識差を要件書やチェックリストなどの文書による方法にて、少なくとも、再発防止を図る仕掛けを構じつつ、設計者の設計力を向上させることを狙っている。当然、製品開発を繰り返す度に、要件書の数やチェックリストの項目数は増加の一途をたどり、設計の出図から生産側の回答までの期間が同じ場合には、物理的に図面検討者を増加させなければならない。また、その標準化の検討も場合わけが増え、体系的に維持する工数も増加する。ここに、アウトソーシングが活用されている。この図面検討現場にアウトソーシングを活用すると、現場の知識は蓄積されず、部分的に社外者が保有することになる。その結果、その部分の検討能力を有する企業内の社員がいなくなり、益々、社外に依存する形に陥っていく。 


 このような方法での製品開発体制では、企業の品質向上、原価低減、作業性向上などの視点が社外者保有となり、企業自ら、製造原価を計算することすらできない最悪の状態になりかねない。製造原価を計算できない製品設計者や生産技術者のプロジェクトでは、グローバルな価格競争に打ち勝つ製品開発をすることができないのは当然である。また、仕入先の部品の原価を見積もることのできない調達機能や設計、生産技術では、企業のビジネス戦略そのものを間違える可能性がある。 

日本の製造業の課題


 日本の製造業はここ20年前まで規模の拡大の一途にあった。そして、リーマンショック、欧州の財政危機、円高による輸出産業の採算悪化など、国内は規模の縮小局面に入っている。そして新コロナ。この規模の縮小局面では、これまでの規模の拡大に必要であった生産設備は余剰な設備になり、休止、工場閉鎖することになることを避けられるとは考えにくい。


 一方、海外にはサプライヤを含め、生産工場がシフトすることも避けられないことである。国内で言われた垂直立ち上げは、今後、海外で垂直立ち上げが必要であり、QCDを確保した生産拠点の立ち上げ力が必要となる。そこで、生産技術者の育成が急務となる。これからの日本の製造業はどんな方向に向かっているのだろうか。もちろん新しい製品を生産することもあるだろうが、消費が海外主体のものは、安い労働力がゆえに、海外で生産することになる。また、耐久消費財も益々、中国、韓国などのアジア製が輸入されることになるだろう。

イノベーション企業への転換の為のものづくり知識の蓄積が必要


 日本の均一的な学力を生かす産業にシフトせざるを得ないだろう。要するに時間消費型で行える労働は海外に移転されてしまう。そもそも、そのような仕事は世界中で競争下に置かれてしまい、日本唯一のものづくりではなくなるだろう。知恵を使う産業・業務にエンジニアがシフトする。知恵を売る企業やものづくり知識を売るビジネスが優位となる。イノベーションを発揮できる企業こそ生き残るのである。


 小さくは企業内での人事異動における保有知識の移動、そして、アウトソーシングによる知識の社外流出、グローバルな生産拡大によるものづくり知識の海外流出などこれらは全て根っこが同じである問題に起因している。それはものづくり知識がこれまで、そしてこのままでは人に蓄積され、決して、組織や企業の財産としてきていないという共通の根本問題にあると言えよう。


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