製造業のDXを始める前に知るべきこと、データが生まれる起源とは

DXデータが作られる最初のタイミングと範囲


 ものづくりにおいて、つくられるデータ項目はその仕事が開発フェーズや工場管理フェーズなどにおいて、仕事の進度によってデータ項目は追加される。
しかし、新しく出現したデータ項目であっても、そのデータ項目は他のデータ項目の細分化された一つであったり、計算された結果であり、派生的なデータ項目であるはずである。そうで無ければ、達成したい目的とは全く無関係な仕事をしていることになる。

 このように、データ項目は当初の品質目標とコスト目標から派生し、その実現のための方法を表現するデータ項目に変化していくことになる。例えば、工場における保全の仕事を考えてみる。保全の仕事の一つに設備の故障対応がある。

この故障対応を支援するシステムを考えるに、故障発生した時間から行われる業務を列記すると、故障の発見、報告、現象把握、問題の大きさ認識、報告、緊急処置、確認、報告、原因の追究、対策の決定、再発の防止、報告などに関するデータ項目を選定するはずである。では、これらの仕事にどのような基本的なデータ項目が語られることになるかについて考えてみる。

設備に関するデータの発生起源

 例えば、この設備はどのような加工を行う設備であるかやその為に守られなければならない点検項目は何であるのかを知りたいはずだ。また、その点検項目はどのような製品品質規格を守るために行わなければならないかなども知る必要が出てくる。これらのデータ項目は設備の保全者であっても、ものづくり企業では当然知っておくべきことである。  

 更に、設備設計の仕事を支援するシステムと関係があることは容易に推察されるはずである。何故、このような設備設計仕様となったかを知りたくなり、その再発防止を前工程に働き掛けることになる。それは設備標準仕様書などに反映して、管理者のチェックポイントになる。

 設備設計の業務では、その設備が必要であることを決めた製品開発時点でその設備名称が生まれる。しかし、その設備の必要性は、製品設計における部品の形や材質などの決定により生まれるものである。その製品の機能実現のために必要な品質規格やコスト目標を達成するために生まれてきたものである。

 このようにデータの生まれるタイミングと関係性について記述したが、物づくりにおいて、データは多くの仕事のインプットであり、アウトプットである。インプットからアウトプットに転換する際に、考え方(ロジック)が必要であり、生産性の高い工場にするには、さらに自動化が必要となる。

N対Mのネットワーク

しかし、重要なことはこのインプット、アウトプットの表現に使われるデータ項目とデータ項目間の関連性である。これらは、一対一ではなく、n対mの関係にあり、個別の数値だけ見ても、別な項目まで見なければ結論に至らない。その意味で、企業の中は単純化を意識し続けなければ、生産性の低下する複雑な仕事が多くなり、コストがアップしてしまう。

ものづくりのDXシステムは全体最適に構築すべきその理由とは

ものづくりに必要な仕事は製品開発・設計、実験、試作、部品・設備調達、工程設計、生産、検査、物流などである。仕事の一つが欠けてもものは造れない。その為、これらの仕事が効率的に推進できるように組織は構成される。 
 しかし、市場の環境変化に沿って組織は改造される。ただし、情報システムは組織とは無縁に造られるものでなければならない。組織変更の都度の情報システム改造投資を避けなければならない。

 製品を開発する人、その開発した製品の図面を見る人、試作品を評価する人など、ものづくりに必要な仕事は全て人で行われている。そこでは、仕事が自動で流れることは無い。あくまでも、仕事をする人が考え、適切な組織に相談し、その結果を他の組織に伝えることが行われる。その間、生まれた情報を受け渡ししていく。

 したがって、ものづくりのシステムとは、部分だけを対象としてもうまくいかないのである。効果も出にくいのである。部分の仕事を対象にシステム化するとそのシステムを動かすためのデータを入力しなければならない。そして、その入力を最小限にしたいがために、システム化対象を狭め、個々の組織や部分の仕事にだけ活用できるシステムが造られていくことになる。

 仮にこのようなことが多く行われると当然、いわゆるスパゲッティ状態になるわけである。しっかり硬いスパゲッティなら他方を引けば他方が動くが、そうではなく、他方を動かすと余計なものが動くとか、何も動かなくなっていく。経営者が嘆きたくなるような結果に至る。このような状態にあることは、全体を見抜こうとするシステム設計者の力不足であると思う。

 整理統合しようにも、もはや個別システムを前提に仕事の進め方を標準化してしまっており、一度に同時にシステムを直さないといけないことになる。結果、手のつけようも無い状況となる。これでは人の為に役立つ情報システムではなく、全体的にみると、かえって生産性をダウンするシステムになっている。それを解決するには、物づくり全体の仕事に対して、活用できるデータを定義することが重要である。

 残念なことに、2010年ごろまでは、ものづくり全体をシステム化させようとの動きがなかった。その後も、industry4.0とかのワードが流入してきても、個別システムに動いているように見える。今後も、企業がこのような意識では、形式的なIT活用に留まってしまうのではないかと大変心配である。

industry4.0についてはこちらをご覧ください。

製造業のトランスフォーメーションの3つの目的とは

ものづくりシステムを3つに分けて、その目的を紹介したい

①製品(仕事)の品質が良くなるツール
 企業は人で組織化されている。その中で生み出される製品やサービスの良し悪しは、そのプロセスを推進している仕事そのものの良否に依存している。人は能力や経験が異なり、結果もばらつくものである。組織は管理者のマネージメント手法も異なり、継続的な管理が行われていないことも多い。そのような人と組織が生み出す製品はその仕事の良し悪しが反映されているものである。そこに誰でも継続的に同じレベルの仕事が行えるツールが必要になる。

②エンジニアリングや間接部門の仕事を全体最適化するツール
 生産現場の改善とはエンジニアリング(計画力)の不備を是正し、修正するための活動であるとも言える。本来、人の仕事にはミスがつきものである。また、計画時に正しかったことは生産の条件変化、市場ニーズ変化などで正しくなくなることが世の常である。そのため、現地現物となって顕在化する問題を生産現場は必死に改善している。しかしその発生原因は、計画業務の仕事の質に問題があることが多いのである。したがって、設計や生産現場、生産計画部署などの仕事をトータルで支援する全体最適意思決定ツールが必要である。製品開発段階におけるチームの能力差は、生産活動そのものに大きな差を与えるものである。

③マニュファクチャリングの標準化の大きなPDCAツール
 仕事の順番などの手続きは標準化が進んでいる。しかし、技術的な検討を行うときの判断方法などは個人の経験に大きく依存している。管理者はこれを標準化する責任があるが、技術は常に進歩し、環境変化とともに判断指標も変化する。その結果、判断は個人の能力で行われている。これらの為に結果的に標準化が遅れている。そのために製造現場には問題が発生してしまうのである。


 製品開発段階の仕事のアウトプットに対し、その結果を表す生産現場の状況を調査、分析することで企業内に大きなPDCAが回る。それによりエンジニアリングの問題が顕在化し、標準化するこができる。


 しかし、現場の仕事は分かり難い動きをしている。分かり難いから、ベテラン経験者を海外工場に派遣し、現地工場の指導をすることから脱皮することができない。現場の仕事は原価、品質、生産性、安全などに人や設備や部品・材料が関係し、それぞれが関係し合っている。企業の縮図ともいえる。現場の実体を知り、課題を共有することができれば、それぞれの計画業務が標準化する。


 分かりにくいマニュファクチャリングの標準化にはエンジニアリングの標準化が必要である。そのためにはエンジニアリング業務と工場の管理業務は計画と結果の関係である。工場の仕事に間接部門はもっと責任を持つべきであるし、工場に任せていては、欧米の科学的アプローチに遅れしまうのである。

製造業の生産性向上の具体的対策を体系的に講義

講義の狙い


 工場の管理者は品質向上や生産性の効率化に注視しながら日常の生産ライン運営に工夫を凝らしている。工場の生産性向上はグローバル化に伴い、海外工場も重要な位置づけになっている。一方、国内工場は少子高齢化に伴う労働力の質的な低下により、より一層の生産性向上に限界を感じている経営層や管理者も多い。

 高機能、高品質のものづくりを標榜してきた日本の工場はグローバルなものづくり競争の中で価格との品質とのバランスに苦しんでいる。グローバルな景気後退は、高機能であれば売れるとのバブル感覚に陥っていた製造業には十分過ぎる程のダメージをもって警鐘を鳴らした。

 かつて製造業において主役は工場であった。製品の加工工程を改善し、物の置き方を改善し、安く良いものを滞留することなく生産するなどについてりーダシップを発揮していたものである。しかし、今、工場は主役でなく売れるものを作るだけの生産を行う脇役になりつつある。工場は本当に価値ある仕事をできているかとの疑問を持たなければいけない。

物が世の中に満ち溢れ、その中でどのように自社の製品ブランド力を高められるかはかつての競争以上に難しいこととなった。需要に引っ張られた生産の意識と需要に苦しむ生産の意識とでは明らかにその企業の取り組み方が違う。

 国内需要の減少により海外に生産をシフトし、海外の需要に応えてきた生産のシフトは多くの本質的な考え方を見失っているのではないだろうか。本来、製造業は常にその商品価値を高める努力をし続けることが必要である。一旦開発した商品をより良い機能や品質に高めることと同時に、その製品に関するコストを低減し続けることの2つを追及することである。

 この品質とコストの2つには当然、ある条件を前提としたバランス点が存在する。高機能化や高品質化だけに走り、生産はアワレートの低い国で生産するということは本質強化な進化は望めない。
いずれ他の企業も同じ方法で追随する、また、アジアなどの国内企業は逆に、より高機能や高品質の製品を売り出すことになる。そのような時に日本企業のもつ強さはどこにあるかが心配となる。

 日本的な運営技術こそが海外企業に勝るものである。多くの企業には品質不良による問題発生の未然防止や原価低減、生産性改善活動など、多くの示唆に富む思考方法が溜まっている。
生産現場の管理監督者やエンジニアだけでなく、現場で働く人にもこれらの素晴らしい経験が蓄積されている。この手法を効率的に運用できるようにツール化しグローバル競争に立ち向かうことが重要である。

製造業の知識検索のインターフェースで重視することとは

私は都市に住んでいるので、大きなビルや交差点などが頭に記憶している。ある意味、自分の都市の中を、自分が知っているビルや交差点によって自分なりの地図を保有している。その地図はタクシーの運転手とは程遠いレベルな簡素な地図である。しかし、人と会話する際には、その程度のアバウトさであのビルの東側とか、交差点の北側100mとの言葉づかいだけで十分に会話を進めていくことができている。詳細は不要なことが多いのである。

 今回の論点は、このようなアバウトなお互いの認識で済むことに対し、情報システムはあまりにも細かい単位だけで処理が行われている。その結果が、知りたいことを知る手間に時間をかけてしまっていることはないだろうかと思っている。

 はっきりと分かっていることから、その周辺のビルや様子を追加の知識として獲得していく。外の位置関係として自分の地図に少しずつ情報を追加しているのだと思う。そして、覚えたことを時々忘れてしまうのでもある。しかし、昔この近くに来たことがあるとか、よく通った喫茶店があった場所などは、おぼろげながら見つけることができる。

 これは、自分の記憶として忘れることのないであろうビルや交差点を目印とした自分の地図に、位置関係と共に、知り得たことを記録しているのではないかと思います。

 ものごとを遡り、記憶を探る方式は、このような間違いのない自分の地図を頭に描き、その近くにどのようなことが、起こったのか、それはどんな人が関係していたのか、どのような思いをしたのかなどを思い出すきっかけにしているように思う。

 自分なりの地図から広がる記憶したことは、幹から枝葉のようにつながり、そして、他の木の枝葉に結合するように関係していく。このことをから、表形式にはデータを蓄積する価値は限界があり、その表は、違う視点や緻密化により、役の立たない粒度のデータと関係性と理解されて、再利用性が低下しているのであろう。

 知り得た知識は、その枝葉の自在な適切な場所に記録することができなければならないことと、検索の入り口として誰にも明確な、地図のようなトピックをビジュアルにした分類による見え方が必要である。この分類は万人の理科できないような細分化は無意味な定義となるために、適度な分類にとどめ、幹、枝葉に展開してしまうのがよい。分岐される場所は目印となるビジュアルな絵で表示されながら、展開された知識についても他の知識との区別ができる絵であることが必要となる。

 ものづくりに適用して具体的に述べてみたい。ものづくり企業には、ものを作る工場がある。その工場のレイアウト図が、その企業のものづくり知識をためる地図になる。その地図には、大きな設備と誰でも分かる建屋の柱番号が記されているだろう。設備以外にも、部品の置き場があり、人の作業場もあるはずだ。この配置図が企業内にものづくり知識を知るための入口となる。この配置図に対して、自分の知っている知識を大きな観点から順に記載すれば良い。自分の知っている部品の知識でもよく、その加工方法でもよい。また、外注先の名前でもよい。品質の管理規格でもよい。品質の管理規格ならば、関係する部品との規格値との関係について、幹や枝葉を超えた繋がりを関係づけた知識が記録できることになる。