ものづくりの言葉マスターの構築はデジタルトランスフォーメーションの前提である。

ものづくりにて使われる言葉の整理をすること

ものづくりシステムを開発する際に大事なこととは、技術者の言葉の解釈の差を解決することにある。企業においては独特な言葉を用いてエンジニアリングが行われている。その言葉は一組織にだけに通じる言葉であることも多い。また、その言葉はどのような分類に属する言葉であるかもあいまいであることも多い。


 ものづくり企業において、この言葉の整理が未だ確立できていないことが、技術の理解をする際の障害となっている。言葉があいまいであれば、その言葉を用いた数式はあいまいなものとなる。組織が自組織のための勝手な区分原理で仕事をするならば、企業全体のコストはどうなっているかを分析することもできない。分析では多面的な切り口が必要となるが、区分原理(分類)のあいまいなままでは、常におおまかなことしか掴むことができない。おおまかなことをより精緻に進めて分析をおこなうことで改革が進む。そのため、ものづくり企業における言葉の障害を取り除くための工夫が必要となる。

言葉の整理の方法


 まず、エンジニアリングに用いる言葉を技術的な表現と管理的な表現に分けて整理をする。技術的な表現も設計、生産技術、生産、調達、品質保証、サービスなどにより同じことであっても異なる言葉を用いている。言葉は文字になると少しでも異なりがあると違いがあるのではと心配になる。しかし、日常的な会話では、多少の違いがあっても、前後の会話からその言葉の意味することを理解し、あるいは確認しあうことが可能であるので、相互に理解ができる。文脈の理解をしているのである。


 文書化されたものの言葉の違いは、その前後の理解や確認をすることができないために、自分なりの理解を進めていく傾向にある。したがって、方言が多く存在する。このことを一度に整理統合することは大変難しいが、整理統合に向けた仕組みを活用することで将来的に統一的な言葉づかいのできる環境に変化させることができる。この言葉の定義はグローバル生産や知識の蓄積に大変重要なものとなる。エンジニアリングの辞書を作り上げることを継続的に行うことを意味している。


 この企業内でのエンジリアリング用語の定義と理解が進み、初めて、全体と部分との関係を区分する分類体系が整理できることとなる。この地味な仕事を組織機能として維持することは企業の財産を蓄積するために大変重要な仕事である。この業務をなくしては、エンジニアリングのIT化は実現できないと言っても過言ではない。

会計処理の勘定科目のようにすること


 会計処理の勘定科目のように、言葉の定義が標準化されていることで、企業の経営状態を比較することができる。この勘定科目の標準化無くしては、会計処置は全く意味をなさない。同様に、ものづくり企業の技術状態を比較することも必要である。お金の計算ではなく、技術の計算ができれば、企業内の技術進度や他社との比較など、グローバル企業間での競争における新たな視点が見つけられるはずである。 次に

体系化された言葉の単位で、ものづくりを比較すること


 製造業の幹部から、何故、あの会社はあのように儲かるのだろうかとの話を聞く。つまり、儲かる理由が分からないと言うことは、自社の儲かることの構成要因が他社と違うということである。比較対象できないから理由が特定できないと言うことである。


 自社の原価管理が大まか過ぎていることに気づかないのである。原価管理をより詳細化するには、より詳細な日常管理の仕組みが企業に存在しないといけない。それは単に、購入費がいくらであるこということではなく、購入費が適切であるかを判断できる技術を自社が保有し、その技術知識から、購入費の交渉が論理的に行えるのである。この判断できる技術を保有せずに、単に高いから下げよでは、いつか、サプライヤとの関係は技術関係が薄れていくことになる。

ものことを言葉の体系に落とし込むことを粘り強く行うこと


 さて、判断する技術を保有するには、その購入材あるいは購入部品についての性能、構造、加工法、品質、物流などのコスト構造が瞬時に取り出せる環境にあるが重要である。このようなことをその都度、調べ直しし、聞きなおし、聞く側も、答える側も都度担当者が交代し、その会話は10年前もやっていたという先輩諸氏の話もでるなどムダなことをずっと繰り返していることを理解すべきである。


 しかし、このことを解決しようと取り組んでも、1年で完了しない、成果がでないから、率先推進する管理者は現れない。管理者は注目されることだけに関心がある風潮がものづくり企業にはびこっている。


 コツコツとコア・コンピタンスを極めるという継続性に関心がない。技術開発は大変重要である。その技術開発のスピードを加速するには、技術の整理と共有が必須である。この地味な仕事を意識させずに実現できる仕組みをIT化する方法を研究し、1つの解決方法が知識管理システムである。

ものづくりの言葉のマスター化は知識の蓄積の基盤である


 重要なことは言葉のマスターである。技術の表現と管理の表現の言葉を整理し、知識体系を整備することである。技術の表現は何かを実現する目的と手段を表現する言葉が対象である。一方管理の表現は心配や問題を表現する言葉が対象となる。製品を開発する際には、実現したい製品をどのように設計するのか、その製品は安全であるか、その設計は問題がないかなどを表の目的と裏の心配の両面を意識しているはずである。


 そこでこの両面に属する言葉を言葉マスターとして定義することで、技術的な説明文は言葉マスターの単語の組合せとして記述できる。その言葉を用いて、言葉と言葉の関係性を記述することとしたのである。この言葉と言葉の関係性はエンジニアによるコミュニケーションでの確認事項そのものであり、この統一的な言葉を用いることで余分な範疇の思考業務を無くし、クリアな領域での技術検討が行えるようになる。
 

言葉マスターは弊社のCKWEB(知識管理システム)に機能が実装されています。

製造業の技術コミュニケーションは企業のものづくり力を高度化する

製造業のエンジニアリングとは

エンジニアリングとは過去の知識、事例の記憶とその選択、組合せにより実現したい課題を解決する業務と定義している。この点で、エンジニアリングはITの活用が可能である。しかし、多くの課題はその要素の単位が異なることの組合せであるがために、その課題を解く数式を持ち得ない仕事となっている。


 例えば、燃費向上に於いて車の重量軽減という方針で検討する際、重量を軽減する材料をアルミや複合材料を選択して評価するにも、その材料の値段や車体の成形技術のレベルにより加工費が変化する。その時点で求めた材料費と加工費の増加コストが燃費向上分と天秤に掛け、意味のあることかどうかを意思決定する必要がある。

過去の知識は改廃され更新されなければならない


 このようなある時点での製造、加工技術により、その時点での製品性能の採否を決定する業務であるために、過去を振り返ってみると、今の製造、加工技術を用いることによって、過去の意思決定とは異なる決定が下されることが日常的である。つまり、技術はその時点での知識であり、その時点での経験である。


 したがって、技術進歩を行うには、過去の知識を知った上で、今の技術から、これから必要となる技術課題を捉えることが必要である。
 しかしながら、過去の知識や今の技術を企業はどのように把握し、企業の財産とすることができているかは、全く不十分なレベルであると言わざるを得ない。企業の中でものづくり知識を共有することで、よりスピーディな意思決定とより正しい判断が行えるエンジニアリング環境となるはずである。


 特許を取得するためには、過去の特許調査に始まる。知識の調査の上に請求項が特定される。これと同じことが、エンジニアリングに於いても必要でありこのことがスピーディーに誰でも行うことができなければいけない。調査という仕事はエンジニアに必須の業務となっている。

エンジニアリングの中にある無駄なことは調査工数である


 しかしながら、企業の中では、いつも調査からスタートすることが多いのではないだろうか。これは技術そのものの蓄積の方法が特許という形式でしか行われているいないからであり、企業内の技術の蓄積の方法を経営者はもっと真剣に考えるべきである。

技術の蓄積に情報技術を活用すべきである


 DXという言葉に振り回されずに、エンジニアリングの業務とは何をどのように行うべきかを考えれば、やるべきことは明確で、その概念は、ものづくり企業に共通であるはずだ。このような概念を明確に説明するシステム企業が存在しているのだろうか?そこが日本のIT活用の問題である。IoTデバイスやセンサー、箱売りだけでは進まないはずだ。

機能の異なる組織を結ぶ情報技術が必要である


 知識の蓄積の方法としては、事例の記憶とその選択、組み合わせにより実現することが必要である。事例とは企業において、各組織の機能により、対象となる事例は異なる。また、事例の説明の範囲も各組織の機能範囲に限定されることになる。一般的にこの機能範囲は重なっていることは少なく、どちらかと言えば、効率化のために、重複のないように機能範囲を業務分掌で定義することになる。ここに各組織の機能が接続の難しさの原因となっている。

それは、エンジニア同士の技術コミュニケーションを実現することで解決できる。


 この接続を人のコミュニケーションにて相互に理解し、それぞれの組織機能に必要なことだけを解釈しあい、その結果をその組織にての結論とする仕組みとなってしまっている。
 エンジニアリングにITを導入する難しさがここにある。したがって、事例の記憶の為の記述方法にこの人のコミュニケーションにて処理されている知らない情報部分を得る工夫が必要となるのである。
 

ものづくり知識の蓄積によるエンジニアリングの抜本的な改革を

今こそ知識の蓄積に関心を持つべき

グローバルな人材流動においても、常に知識は企業の財産として保有しつづけ、管理されるような取り組みをすべきであると考える。企業の管理者は目前の問題解決、業務遂行に関心はあるが、その問題を解決した材料やデータ、業務遂行に活用した知識などはその個別問題と業務の完了と共に失われることに関心を示していない。


 その問題が再発し、類似業務の遂行の必要がある時には、その知識を持つ担当者を探して、その過去の振り返りを行う。Know-whoという言葉がエンジニアの中で語られ、IT化にあたり、Know-whoが分かればよいという意見も聞く。人は異動することを考えれば、このような仕組みに効果がないことは言うまでもない。

IT技術の適用ができていない知識の蓄積


 Know-who依存したエンジニアリングこそを抜本的に改革する必要がある。上位の管理者であればある程、エンジニアリングの全体を把握する必要がある。その細部が人に依存し、あるいは外部の企業に依存し自社の製品が生産されていることに心配を持つのが普通の感性であるはずだ。

良い品質の部材でないことを前提にものづくりの品質管理が必要


 国内で良い品質のものが納入される前提で、企業の仕組みができているが、グローバル生産において、良くない品質のものが納入される前提で企業の仕組みを構築する必要がある。


 これまで、日本の企業は、ものづくりが不安定になる可能性のあるポイントを管理することで、製品の品質を維持してきた。これからは、原点に戻り、ものづくりで守るべき品質の整理と明確化が求められる。海外の地域、企業の持つ固有技術のレベルにより、品質管理対象は適切に選択されなければならない。


 多くの優秀なサプライヤに支えたれた国内生産と全く異なる意識が必要である。品質の問題が発生すると、何故その問題が発生したのかを、改めて1から調査し直すことが必要な仕組みではグローバル生産は不可能である。常に、守るべき品質と守らなければなにが問題となるかを共有する生産運営でなければならない。

エンジニアリングの判断の蓄積も重要


 では、この共有をどのように実現するかである。製品が生まれるプロセスにおける知識を蓄積するが一番効率的である。製品設計、解析、実験、生産技術などのどの組織機能のエンジニアであっても、最終製品の品質、性能に問題は無いかという視点でものの構造や加工法を考えている。


 その考えている中には、従来と同じであるので、大丈夫であるという承認と、少し、従来とは異なるので判断ができないという保留と、このままでは問題であるとはっきり言える問題との3つに頭の中で考えているはずである。


 保留と問題は解決をしなければならない点であるので、課題管理などのシートに記載され、マネージメント対象になる。しかし、承認はどこをだれが承認しているかの記録はされず、設計完了後に改めて、自工程が必要な加工や作業をリストアップすることから仕事をスタートさせている。


 この暗黙の承認は海外の生産には通用しない。海外の生産の場合には、この暗黙の承認を含めて、共有しマネージメントする必要がある。つまり、国内では問題なく生産加工できることであっても、海外の現地メーカではその生産加工の経験が薄い場合があるからだ。


 出図した図面に対して、現地メーカの経験が薄い箇所はどこであるかを事前に知ることはできない為、設計側が守るべき品質の全てを現地メーカに示す必要があるからだ。実は、この事は、国内のエンジニアにも有益な知識となる。

技術知識の判断・承認・保留のタグ付けを行うこと


 これまでは基礎的な知識はエンジニアがOJTで獲得している。管理も問題点の管理が主体であるので、問題だということは言いやすく、問題なく可能だと宣言する承認はベテランでないと難しいのである。


 したがって、承認点を共有することはエンジニアが問題ないとの判別の事例と理由を知ることができ、一人では経験のできない多くの判別の事例と理由を知識として身に付けることができるのである。問題であることを知っている知識と問題でないことを言える知識とは知識の範囲が異なり、それぞれを身に付けることで、より深い知識を身につけることができることになる。

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製造業のイノベーションと高効率なものづくりに必要な技術知識の蓄積

グローバルエンジニアの育成は急務

グローバルエンジニアの育成はこれまでどおりのOJTではその逼迫度に合わない。そこで、ITを活用した現場的な価値をもつ方法を提案している。物や事の理解は、人がその場面に出くわした体験から身につくもので、その体験を解決する中から、これまで知らなかった知識を習得し、より広く深い知識として記憶される。このような事柄は、企業や社外アウトソーシングの人でも同じである。


 しかし、これまでのアウトソーソングはその結果を求めるだけであったが、アウトシーングが経験した現場を企業に提供することを行えるようにすることである。先のコールセンターにて顧客の会話がテキスト化され、蓄積されることと同様に、企業、社外のエンジニアが日々、直面していることを蓄積できるようにすることである。

製品開発部門の人材育成


 製品開発、設計段階では、現場とは、設計者と生産技術者が設計構造について検討し、判断をする仕事である。この時には物はなく例えばCADにより作図された3DCADモデルである。あるいは、CAE解析者が解析した結果のデータや、実験部門が実験した結果のデータである。


 今の各製造業でのこれらの現場の仕事は、その当事者だけが知り得、その当事者はその知り得た知識を誰に伝達すべきか知らないことが多い。結局、現在のエンジニアリングは人に依存した方法であることばかりであり、CAE、CADが採用されてはいるものの、本当に局所的な知識共有しか行われていないのである。

社外者も同じ知識共有が必要


 このような職場環境に。社外者が共に働く現場では、同じく、社外者に特定の知識が個人持ちとなることは否めないことである。
 IT技術の活用をこの知識蓄積に対して実現することはエンジニアの考える仕事の可視化になると同時に、エンジニアの考えたことを生産する側と共有することが可能となる。

製造部門での原価低減


 また、生産現場では、物を手にしての原価低減や品質改善、作業改善の取り組みが行われるが、この時、現場では、実際の部品に張り紙を施し、どこの部分をどのように改良すると良いかを指摘しあうことが多い。その指摘した結果を製品の設計者と議論し、採否を決定することになる。

現場で発見した知見の蓄積が必要


 仮に、この改善の張り紙を製品設計者の作成した3DCADモデルに対して記述したら大きなメリットがあるはずである。まず、順番に設計者や生産技術者は3DCADモデルに製品開発段階での設計構造を詰めてきた現場の知識を記述する。そして、その3DCADモデルに記述された製品開発段階での現場の知識を参考にしながら、実際の生産現場での原価低減や品質改善、作業改善が提案されるということが可能になる。


 このことにより、社内関係者の業務スタート時の保有知識はあるレベルに高められ、その共通知識をベースにした議論は、より効率的に網羅的に進めることになる。その議論を通じ、更に参加者はその知識を深めることにもなる。また、この議論を同じ3DCADモデルに記述することで、次回の設計に考慮すべき知識を特別な方法を用いることなく、設計者に参考とさせることが可能となる。このように製品開発や生産における意思決定に使われた知識は大変重要で価値のあるデータであり、その意思決定に例え社外者が参加していたとしても、その意思決定に使われた知識は、企業の知識としてITを活用して企業の財産となる。このことは、これまでのエンジニアリングの仕事のやり方を抜本的に変えることになるだろうと考えられる。

開発プロセスへのものづくり知識の活用


 これまでのエンジニアリングは設計、生産技術、生産の3つの機能に大きくわかれ、その順番に製品開発の設計情報は流れてくる。しかし、その流れてくる設計情報を待つことではなく、積極的に取り、生産側の要求を設計構造に織り込むことで、双方のやり直し削減や、低コスト、高品質な製品設計に英知を集結することをコンカレントエンジニアリングとして推進してきた。

人海戦術では高効率な製品開発は難しい


 しかし、この方法は、あくまでのマンパワーに依存し、繰り返し発生する問題点や製品開発に参加するメンバーの知識差を要件書やチェックリストなどの文書による方法にて、少なくとも、再発防止を図る仕掛けを構じつつ、設計者の設計力を向上させることを狙っている。当然、製品開発を繰り返す度に、要件書の数やチェックリストの項目数は増加の一途をたどり、設計の出図から生産側の回答までの期間が同じ場合には、物理的に図面検討者を増加させなければならない。また、その標準化の検討も場合わけが増え、体系的に維持する工数も増加する。ここに、アウトソーシングが活用されている。この図面検討現場にアウトソーシングを活用すると、現場の知識は蓄積されず、部分的に社外者が保有することになる。その結果、その部分の検討能力を有する企業内の社員がいなくなり、益々、社外に依存する形に陥っていく。 


 このような方法での製品開発体制では、企業の品質向上、原価低減、作業性向上などの視点が社外者保有となり、企業自ら、製造原価を計算することすらできない最悪の状態になりかねない。製造原価を計算できない製品設計者や生産技術者のプロジェクトでは、グローバルな価格競争に打ち勝つ製品開発をすることができないのは当然である。また、仕入先の部品の原価を見積もることのできない調達機能や設計、生産技術では、企業のビジネス戦略そのものを間違える可能性がある。 

日本の製造業の課題


 日本の製造業はここ20年前まで規模の拡大の一途にあった。そして、リーマンショック、欧州の財政危機、円高による輸出産業の採算悪化など、国内は規模の縮小局面に入っている。そして新コロナ。この規模の縮小局面では、これまでの規模の拡大に必要であった生産設備は余剰な設備になり、休止、工場閉鎖することになることを避けられるとは考えにくい。


 一方、海外にはサプライヤを含め、生産工場がシフトすることも避けられないことである。国内で言われた垂直立ち上げは、今後、海外で垂直立ち上げが必要であり、QCDを確保した生産拠点の立ち上げ力が必要となる。そこで、生産技術者の育成が急務となる。これからの日本の製造業はどんな方向に向かっているのだろうか。もちろん新しい製品を生産することもあるだろうが、消費が海外主体のものは、安い労働力がゆえに、海外で生産することになる。また、耐久消費財も益々、中国、韓国などのアジア製が輸入されることになるだろう。

イノベーション企業への転換の為のものづくり知識の蓄積が必要


 日本の均一的な学力を生かす産業にシフトせざるを得ないだろう。要するに時間消費型で行える労働は海外に移転されてしまう。そもそも、そのような仕事は世界中で競争下に置かれてしまい、日本唯一のものづくりではなくなるだろう。知恵を使う産業・業務にエンジニアがシフトする。知恵を売る企業やものづくり知識を売るビジネスが優位となる。イノベーションを発揮できる企業こそ生き残るのである。


 小さくは企業内での人事異動における保有知識の移動、そして、アウトソーシングによる知識の社外流出、グローバルな生産拡大によるものづくり知識の海外流出などこれらは全て根っこが同じである問題に起因している。それはものづくり知識がこれまで、そしてこのままでは人に蓄積され、決して、組織や企業の財産としてきていないという共通の根本問題にあると言えよう。

製造業のアウトソーシングは要注意。人材育成を行って内製化の要否を検討すべき

アウトソーシングに有益な現場知識が蓄積されていく

標準化された業務であっても、その仕事に従事する人は、標準通りの手続きと判断に沿って業務を遂行すべきかを判断し業務を行っているはずである。今、コールセンターは進化し続けている。顧客からの電話応対にITを用いた標準対応画面があるとともに、顧客応対の会話を全てテキスト化し、記録している。この必要性はどこにあるかと言えば、アウトソーシングに電話応対を社外化しても、その応対(現場)の事実はしっかりと記録し、その記録から、見落としてはいけない顧客要求を収集しようとしている訳である。

このことをエンジニアの現場調査の社外化と比較すると分かりやすいはずだ。エンジニアは面倒な現場調査を社外に委託した場合、結局は現場の問題を知り、知識を増やすのは社外者である。しかも、その調査の結果を整理する業務まで社外化した場合には、判断項目の選定まで含めて判断を社外依存していることになる。確かに、その結果を企業の担当者(管理者)はチェックして、良否を判断することは行うであろうが、その方法や内容のチェックに甘さがでることは容易に想像できるところである。

フィールドサイエンスの重要性


 結局、現場の調査の社外化は、新鮮な事例に触れ、知識を増やす機会を企業自ら放棄し、社外にその能力を付与することに他ならないのである。したがって、その社外メンバーは長期に渡り、その企業にて固定的に採用されることになる。企業からみれば、失うことのできない知識の保有者となっているからである。川喜田先生はフィールドサイエンスと呼んだ分野である。

社外化は管理から改善の対象から外れやすいので注意が必要だ

一方、このような社外化を行うと、面倒な仕事はどんどん社外に移りやすい。特に、生産量の拡大時はその傾向にある。かつては、派遣法などの整備が無く、必ず企業内で片付けるしかない仕組みであった。ゆえに、業務の効率を向上されることの改善が多く行われ、また、標準化も活発となっていた。社外化が広まり、見かけ上は一部の業務が社外にて実施されることで、企業は余裕が増したかに感じるが、実は、社外にて、業務の標準化が活発に行われなければ、継続的に一定の費用支払いをする必要がある。社外は売上を増やしたいので、積極的に改善をし、同じ業務成果でも、自ら請求額を下げることはしないのではないだろうか。


 毎月、毎年、一定のキャッシュアウトが発生することへのメスを入れていくためには、その業務の内容と質をチェックする必要がある。つまり、そのためには、企業にて業務管理を実施する役割を持つ必要があり、間接業務に更に間接業務を生み出してしまっていることに気づくべきである。一旦、業務管理は楽であり、そのような仕事を良しとする風潮が企業内に広がると、いたる組織で社外化が拡大する。

社外化した業務を内製化することは大変難しいことになると知ること

一旦拡大した社外化を内製化することは大変難しいこととなる。ノウハウや経験がないため、企業にその内製の仕事を行える人材を育成することが必要であるが社外化した期間と同じ位の育成期間が必要であるからだ。

物流コストは手を出しにくい社外化である

IT業界ではSCM(サプライチェーンマネージメント)の取り組みが行われている。自然の災害が更にその適用拡大を加速している。SCMの目的は、物流コスト低減にある。しかし、物流は今や、グローバルな業務であり、企業だけで、グローバルな物流を実施することは不可能である。企業の子会社や専門の物流会社とグローバルな物流を実施せざるを得ない。この物流も社外化の1つである。社外化はその企業の使命として、積極的なコスト低減には結びつく可能性は少ない。質的には正しく輸送されても、コスト的には難しいことである。QCDの中で、Cは劇的に改善されない。

ものづくりの社外化は内外製の価値と企業の本質とを考えて行うこと

これと同様に、製造業も、部品や加工、材料を社外に依存している。物を輸送するSCMではなく、ものをつくるエンジニアリングチェーンマネージメントが必要になる。ものをつくるエンジニアリングには開発、設計、生産などの業務において、QCDへ与える影響が強い。社外化されている業務はこの分野に多くあるはずだ。設計、実験、CAE解析、図面検討、試作、加工、設備設計、工程設計、量産トライなどに多くの業務に社外を活用している。これらの業務は企業自身でかつては遂行していたことである。

製造業の人材不足の対策は何をすべきか

社会環境の変化として、今、若い人の就職が厳しい。一方、年金支払いの逼迫から企業には定年延長の動きを国が進めている。企業は固定費を削減するために流動的な人材を欲しがり、業務を社外化する。企業から見れば、定年延長によるコスト負担増で、ますます、必要な時だけ人を採用できる業務の社外化を進めざるを得ない。その結果、若い人の採用を減らす。また、円高によりグローバルな生産拡大は益々強まり、その結果、現地採用は増えるが、国内の採用は延びない。

このようなことの結果として、今、製造業において人材不足が大問題となっている。人材とは仕事のできる人材である。社外化拡大以前に社内で内製の仕事の経験のある人材が不足しているのである。企業は独自に集約していた固有のコア・コンピタンスを社外化し、企業の知識体系のいろいろなところに穴が空いてしまっているのである。しかし、失われた知識の復活には大変な時間が必要である。少なくとも10年は必要である。その間にはグローバルに勝てるエンジニアを更に育成する必要がある。

グローバルエンジニアの育成が必要

さて、ここからが本題となる。グローバルエンジニアをどのように育成するかが生産拠点を海外にシフトしていく際に重要である。これまでのように現場のベテランが体でもって海外の生産の指導をする姿は古い。日本はこのような精神論や美談をそのまま、受け入れてしまいやすい。電気、自動車などの韓国、中国の台頭はどのようになされたかを考えれば良い。彼らはもっと製品、生産を合理的に進めてきている。自国のベテランなどは日本ほど多くない韓国が、グローバルな生産を立派にできている。


 グローバルエンジニアは英語ができれば良いわけではない。英語は必要だが、もっとものづくりの設計、生産の知識と経験を持つエンジニアの育成が必要である。企業により、この必要とされる知識と経験は異なるが、その育成への取り組みが急務である。インターネットで育った世代が企業の管理者になるのも間じかに迫ってきている。日本のものづくり企業がこれからもグローバルに勝ち残るためには、海外企業には少ないとされる生産技術のエンジニアを育成する必要があるのではないかと考えている。