過去に起こった問題は、特に製造業では過去トラと呼ばれています。過去トラとは過去のトラブルのことで、一般的には過去のトラブルを参考にすることで、同じような問題を再発させないようにしたいと考えています。
しかし、このように過去トラを使い切れている企業はそれほど多くないことが分かっています。過去トラはどのように扱われていますか?と質問すると、サーバーにトラブルの報告書が保管してあります。或いは、トラブルが発生した際には、速やかに社長以下の幹部社員や課長まで一斉メールで伝達していますとの返事が返ってきます。
では、過去トラの内容として、どのようなことが書かれていますか?そして、対策や結果まで記録されていますか?とお聞きすると、実は、その点については十分フォローできていないとのお答えがよく聞かれます。
このようなことがないように、どのように過去トラブルを扱い、活用すると良いのかについて、具体的に解説をしていきます。
まずは、今回、過去トラとはについて考えてみることにしました。
1、過去トラの価値
私はトラブルというものは神様からのプレゼントだと思っています。それは、最初に小さなトラブルが発生するものです。そして、突然大きなトラブルが発生するのです。ですから、最初のトラブルを神様からのプレゼント、皆さんが気づかない問題を神様が与えてくれて、後の大きなトラブルを起こさないようにしなさいということだと考えています。
しかし、トラブルはその場における現象だけを見るとき、大したことではなく、いつも起こっていることだと思っていないでしょうか?設備のチョコ亭、繰り返しの品質慢性不良、作業遅れなどが日常的に発生していると、このように鈍感な感性になってしまいます。
安全についても同じく、自社は工場の安全に気に配っていますと自信をお持ちの方もいらっしゃると思います。しかし、更に、いろいろな他社の工場を見学することを進めます。すると、自社では全く気にもしていない細部の危険を見つけようとする姿勢や、その対策の実施具合に驚くことがあります。反対に、工場に一歩踏み入れただけで危険度満載の場面を見ることもあります。常に感性を高めているとこのようなことは許されないと思ってしまいます。
製造業はその製品を計画通りに日々生産できているかが重要です。稼働率80%程度では、生産時に多くの問題が発生していることになります。この時の問題を一つずつ確実に対策することが必要で、その日の問題をその日のうちに対策することでなければいけません。数日後に対策をしようとしても、その問題は処置が施され、現象の確認や要因の追及ができなくなってしまいます。
後日、トラブル報告書を読むと、問題は一体何であったのか、今でも不明なままなのか、対策は誰が責任を持って行うのかなども、記載されていないままであることが多くありました。
発生した問題を迅速に解決できる力はその企業の生産力、稼ぐ能力そのものです。過去トラは、放置せず、貴重な指摘だと思って取り扱う姿勢が求められています。
2、過去トラについての意識の現状
例えば、生産ラインで品質問題が発生したとします。ラインを停止させている場合には、何が起こっているのか現場の職制もすぐに確認に向かうはずです。そして、その状況を判断し、止め続けるのか、一旦、ラインを流し、後で手直しするかを決めていると思います。この時、まだ、原因は掴めていないことが多いはずです。そこで誰かが、現場の確認のため、或いは手直し場での確認のために関係者と思われる部署に招集をかけることになります。もちろん品質管理の検査部署には連絡が漏れなくなされると思います。
しかし、この招集に迅速に応じることができないタイミングもあります。関係者が集まっても、他の関係者や部品の仕入れ先にも集まってもらう必要があるなどして、数日後に再度、関係者が集まることもあると思います。
問題は発生しないようにすることが目標であるので、一般的に、問題の解析を役割とする組織は多くの人員で構成されないものです。したがって、毎日問題が出るような工場では、問題の解析が追いつかず、報告書も書ける範囲で書くことで精一杯の状況になってしまいます。
発生した問題はその日の内に、要因まで解析し、対策できることは、翌日の生産までに暫定対策を行うことで、その効果を確認するという運営が理想だと思います。要因解析と対策までをきちんと行わないと、いつしか、その問題は対策責任者も明確にならず問題が放置されてしまいます。自分の仕事で忙しい人にとって、問題の解決に参加したくない人が多ければ本当に無責任な状態になってしまいます。
もし、問題の解決が行わなければ、発生した問題はお医者さん処置(赤ちんを塗る)だけで、済まされてしまい、手直しした製品はお客様の元に出荷されていくことになりかねません。原因が分かり、対策が打たれるまでその問題を発生している製品は工場に留めておくのは常識だと思います。
このような処置だけの品質管理が行われているならば、生産現場の働く人、部品を運搬する人、検査をする人、それぞれの管理監督者さらには製品設計者、生産技術者なども揃って問題解決についての意識が低いと言わざるを得ません。このことは企業の良くない風土となり、新入社員もその風土に染まっていくものです。一旦染まった良くない風土を立て直すには、トップダウンの必要にして真剣な姿勢が必要であることは言うまでもありません。それにはもっと長い期間が必要となることでしょう。生産コストとしてきちんと問題対応工数を反映することも重要です。隠すことはできない生産コストなのですから。
3、ホワイトカラーの過去トラ
過去トラはブルーカラーの職種に限ったことではありません。製造業の間接部門の仕事は、利益を出すための重要な仕事です。製造現場の直接部門が問題が多く発生し、計画通りの生産量が出ないのであれば、その原因は間接部門にあると考えた方がいいです。
例えば、製品設計の業務では、製品の図面を作成することがその業務のアウトプットの一つです。その時に、良い品質のものが、安く作れるように考えることが必要となります。この考える仕事の中で、過去に問題があった設計とその考え方が共有されていなければ、同じ問題を起こしてしまう可能性があります。
図面の作成途中であっても、関係部署からの問題指摘はすぐに、問題として扱われなければいけないのです。そして、その理由と対策を決めて図面を修正することを行います。このように考えると、問題とは物理的に部品や製品になってから発生することだけではなく、製品の開発プロセスや実験などにおいても発生しており、問題を解決することが仕事そのものだということになります。これらを全て過去トラと呼ぶ範疇に含めて俯瞰して考えることで、設計と生産現場での問題の関係性がクリアになり、本当の問題が浮き上がってくるようになります。過去トラはこのように全社で活用することが必要なのです。
4、過去トラは情報システムで管理する
過去トラは安全、品質、作業性、コスト、リードタイム、在庫など、多様な問題が記録されていきます。そのために、その問題を分析できることが必要で、社内全体としての共有システムが必要になります。問題現象や部品名や工程名、組織名、仕入れ先名などで検索できるのはもちろんのこと、現象の文章を全文検索できることや、対策進度などの計算も行える情報システムを構築することを勧めます。Excelファイルをサーバーに登録するだけでは、目的が不明確で、何のために過去トラを蓄積しているかが理解できませんし、活用もされません。
過去トラは、製造業では製品開発の問題を未然防止することをはじめとして、計画業務を行う調達や生産管理、原価企画など間接部門の業務上の問題を無くすことにつながる重要な事例集なのです。