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【製造業の改善と革新の会】

木曜メールマガジン

”原理からのDX”を語る

元トヨタ業務改革室長

#008

今月のテーマ
【過去トラの活用法】

今では、製造業であらゆる仕事の中で用いられる過去トラの利用価値についてのお話です。

今後の配信予定

 

     1、過去トラとは、   

2、対策の重要性、今回配信

3、対策は誰がすべきか、

4、エンジニアリングへの活用、

5、現場での利用

6,生産技術での利用、

7、,製品開発での利用

 

【過去トラ対策の重要性】

過去に起こった問題は、特に製造業では過去トラと呼ばれています。過去トラとは過去のトラブルのことで、一般的には過去のトラブルを参考にすることで、同じような問題を再発させないようにしたいと考えています。

しかし、このように過去トラを使い切れている企業はそれほど多くないことが分かっています。過去トラはどのように扱われていますか?と質問すると、サーバーにトラブルの報告書が保管してあります。或いは、トラブルが発生した際には、速やかに社長以下の幹部社員や課長まで一斉メールで伝達していますとの返事が返ってきます。

では、過去トラの内容として、どのようなことが書かれていますか?そして、対策や結果まで記録されていますか?とお聞きすると、実は、その点については十分フォローできていないとのお答えがよく聞かれます。

このようなことがないように、どのように過去トラブルを扱い、活用すると良いのかについて、具体的に解説をしていきます。

今回、過去トラ対策の重要性について考えてみることにしました。

1、なぜ過去トラは対策が放置されるのか?

それは、トラブル対策に関与すると時間が取られるからです。自分の仕事がある中で、その時間を割いて、自分の仕事と関係のなさそうなトラブル対策はやりたくないと思うからです。自分の配属している組織にはそれぞれの役割があります。その役割の不足に関して発生したトラブルは積極的に対策をすることをします。

しかし、その役割に結びついていないと思われるトラブル対策は進んで行おうとしないのがあっても仕方がないことだと思います。どちらかと言えば、もっと創造的なことに時間を使いたいと思うことが自然です。トラブルは発生しないことが理想です。それでも、発生してしまうのは、そこに何らかの原因があるはずです。その原因にはそのトラブルが発生しないようにする仕事の定義ができていないという業務プロセスや役割の付与がされていない欠陥のようなこともあります。役割の付与はされているが、その手続や判断の方法があいまいであり、その曖昧性からトラブルを起こしていることもあります。更には、業務の負荷が高いことにより、手が回らず手続きの一部を忘れることにもあります。最後に、その担当者が体調がすぐれずにいつものような作業品質で仕事ができなかったと言うこともあると思います。

どんなに大きな企業でも、仕事するのは人です。その人の置かれている状況によって、その仕事の出来栄えは変わってくるものです。どのようにマニュアル化しても、人の心までのマニュアルは完成しないのです。つまり、トラブルは必ず起きるものと考えて対策をするしかないと言うことです。大きなトラブルではなく、小さなトラブルは私達の仕事のプロセスの中で毎日発生しているのです。このよう小さなトラブルでも対策を行い続けることは、それは仕事のプロセスを自動化していることになるはずです。その結果、生産性が高まっていくことになります。

しかしながら、仕事のプロセスに疑問を持つことができない人には、トラブルが”問題”として認識できなくなっているのです。社員は全員が問題解決者の意識を持つと、自部署、自分に関係なく、対策をする必要のある”問題”として認識できると思います。そのように認識できなければ、多くの部署に関係した、低頻度でも重大と思う感度の高い運営ができるとは思いません。

安全、品質、コスト、リードタイムを最良にするには、多くの関係者に跨がる潜在的な問題を目にみえる型で発生した、ケガ、ヒヤリハット、製品検査での傷、動作不良、部品運搬の無駄、作業動作の無駄、納期遅れなどの具体的な諸問題に一つずつ関与し、その実態を体験する必要があります。特に忙しいホワイトカラーは、そのような時間を体験していないために、問題を認識する感性が身についていないのではないでしょうか?ホワイトカラーは自分の計画したことの結果を責任を持って解決しなくてはいけなくて、現場に依存していては進歩しないことになります。

製造現場で日夜発生するトラブルが一向に減少していかないという漠然とした問題認識ではなく、どんな工程、部品のどのような作業が製品機能に問題を起こしているのだろうかと言う具体的な視点で現場で考える仕事をすべきだと思います。それはトラブル対策をすることで身についていくものではないでしょうか?

 

2、過去トラは企業の隠れた問題を顕在化させている

完全な製品をつくるには完全な仕事をする必要があります。ロボット化、最近では生成AIなどが期待されていますが、完全な製品のための完全な仕事を任すことができるでしょうか?ある特定な製品や部分の仕事ならその可能性はあると思います。しかし、それだけでは、日本の生産性は向上しません。完全な製品を作るための完全な仕事とはどのようなことをすれば良いのかを考える必要があります。そのような思考を経て、徐々に完成度の高い仕事に到達することができるのではないでしょうか?

一方、企業は見た目の生産性(=固定費削減)だけで、外部委託や非正規雇用を選択しています。本来行うべき完全な仕事の目次すら存在しない企業もたくさんあるのではないでしょうか?企業の組織づくりは過去の実績の上で、変化しながら進んできています。見た目の生産性を追求するだけだと、その陰で、非常に重要な仕事を捨てていることを忘れてしまいます。そして、その重要な仕事は元に戻らないことと認識をすべきです。

過去トラは神様からのプレゼントと先のメルマガで記載しましたが、どんなに必死になって漏れのない業務プロセスを設計しても、その網から漏れ出てしまうことをゼロにはできないのです。人の想像だけでは、どこかに漏れが出るために、過去トラが発生していると考えるべきです。プロセスの穴が過去トラというものを生み出しているのです。問題を多く認識している企業は、その対策を行うことでもっと儲かるはずだと思います。問題を解決すること自体が、もっと難しい仕事になっているのも事実で、プロセスの穴を埋めるためには直接関与しない関係者で、その穴を埋めるアイデアを出す必要があります。

トヨタ自動車で育ったものとして、トヨタ式問題解決法を企業にご紹介している理由はここにあります。また、別な機会にこの点についても詳細解説をしたいと思いますが、簡単に記載しておきます。

3、トヨタ式問題解決法でトラブル対策を

トラブル発生時にどのような手続きで問題を解決するかは企業人のスキルとして大変重要な要素です。トヨタ自動車では多分、60年以上にわたり、全社員に一般的な教育としてトヨタ生産方式とこの問題解決法を教えています。問題解決法についての関連書籍は多くありますが、どれも自分の問題を実際に解決したいときに、つまづきやすい点を説明していないと思います。

 トヨタが行う継続的改善はこの社内教育で学ぶ問題解決法が無くしては実行できないものです。なぜなぜを繰り返すだけではなく、そもそも何が問題であるのかという背景確認に時間をかけることが大事です。そして何よりも、チームを作り協力し合って解決のための議論をするステップを学びます。このステップをお互いに処置しながら、問題の解決を進め、改善を実行する手続きや思考法を繰り返し実務の中で実践しているのです。手続きや思考法を皆が理解していることで、無駄な会議や無駄話がなくなり、実際の問題が解決できるのですから、ぜひ、皆さんにも進めたいと思っています。

 問題解決法は座学で学べるものではなく、実際の問題を解決する実践を何回も繰り返すことで思考が身に付くものです。この体得をした上で、日常の問題を解決し、それらを過去トラとして未然防止に活用すれば、より良い業務プロセスが実現できると思います。

4、トラブル対策の取組が企業風土を丸見えにしている

お客様第一を掲げる企業は多いのですが、社員の一人ひとりがそれを実践することは難しいと思います。大きな企業であればあるほど、業務が細分化され、自分の担当範囲も狭いものになりがちです。それでは広い視野でお客様と自分の接点は何かと考えることも難しい業務もあると思います。そのような場合には自分の後工程は誰で、その後工程のニーズは何かを考えて欲しいと思います。後工程のニーズがわからないまま仕事をしていては問題です。最後の後工程は製品製造であれば、完成品の組立工程です。この工程は前工程に影響を与えることも、前工程から影響を受けることも多い責任の重大な工程で、お客様と一番近い製造における最後の砦になっています。

その最終工程はトラブルが一番多く発生するのは、扱う部品点数や加工数、作業者数などからも当然のことだと思います。そこで、組立ラインの実態を最初に観察することにしています。安全問題はどのくらい発生し、品質問題はどのように発生し、対策がされているかなどの工場内の掲示物を見ることにしています。その掲示物と実際の組立工程を比較して考えると疑問を持ったりすることも良くあります。数字をよく見せようとしていないか?良いものだけを表現していないか?など唸ってしまうこともあります。

このような企業へのアドバイスは、より困難を極めることを体験しています。なぜなら、トラブルの対策が十分でなく放置されている実態がそこには必ずあるからです。発生している問題は自分には無関係なことと逃避している管理者や働く人が作る製品は買いたいと思わないのではないでしょうか?

近年、といっても20年くらいの間に顕在化した大企業における品質、認証、検査、修理などのニュースを知るにあたり、どうしてこんなことになってしまうのだろうか?と思ってしまいます。それもずっと前から行われていたにも関わらず、最近判明したというものが多いようです。問題を対策するよりも、隠そうとすることの心理はどんな企業でも少なからずあるだろうと思います。それは、製造現場にて発生した過去トラを対策しない習性とやっていることは同じように思います。過去トラの対策をしっかり行う風土があってこそ、製造業としての倫理観が維持できるのではないでしょうか?

 

次回のテーマ
【対策の重要性と活用】

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過去トラの対策は誰がすべきかお話しします。

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